小説 昼下がり 第四話 『晩秋の夕暮れ。其の一』



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 「さすがね、見直したわ。
 ほとんど観てないのかと思った。だって、
しょっちゅう煙草で席を立つもん。
 格好いい!透さん」
 妙子は透に身を寄せた。
 「やめてくれよ、透さんーって。こそば
ゆいじゃないか。惚れ直したかい?」
 「それとこれは別!」と、ぴしゃり。
 啓一は、妙子と秋子の相違点を探そうと
したが、難関極まる問題に皆目(かいもく)、
答えを見出せなかった。
 「実は俺も観てるよ。三日前の木曜日の
仕事帰り。何といってもやはり、ラストシ
ーンだね、印象に残ったのはー。
 アラン・ドロンの発するあの奇声と云う
か、叫びと云うか、『イェーイ』だったね。
一体、何だろうね?」
 「解らなくていいんじゃない?人それぞ
れ感じる視点があると思うわ。
 友へのほとばしる感情の表現の仕方かし
ら、ね、啓ちゃん!」
 諭(さと)すように語る妙子の表情は妙に
大人びた雰囲気がただよっていた。
       (二十二)
 オープンカフェの奥に飾られている、大
きな柱時計が「ボーン、ボーン」と4回鳴
った。あと一時間もせぬうちに日は沈む。

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 「帰ろうか。今晩、すき焼きパーティー
だって。透も来るだろう?」
 「うん、妙ちゃんのお母さんに俺から電
話を入れておく。そこの郵便局の公衆電話
からするよ。先に行っていてくれ」
 「妙ちゃん、一緒に帰ろうー。途中、回
転焼きをお母さんに頼まれているから買っ
て帰る。透、先に歩いて行くから、電話が
終わったら大香堂の裏の回転焼き屋さんに
来てくれ」
 支払いを済ますと、啓一と妙子は連れだ
って歩いた。
 妙子がふと振り向き、透を見ると風体(ふ
うてい)の良からぬ三人の男連中と、何か揉
(も)めている。
 「啓ちゃん、啓ちゃん、大変!透が革ジ
ャン着ている連中と揉めている。大変よ、
何とかしなきゃ!」
 チラッと振り向き、啓一は笑みを浮かべ
た。
 「大丈夫。すぐ終わるよ。心配なのは、
その三人さ。手加減してやればいいのだが、
透はー。さっき支払いをしているとき、足
を踏んだ、踏まないと、ごたごたしていた
ね」
 妙子は啓一の云う言葉に要領を得なかっ
た。赤い唇が少し、震えていた。

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 「透はね、慣れているの。
 喧嘩慣れとでも云うかな。柔道三段、空
手もやっていた。二段だったかな。
 柔道で高校、大学と国体にも出ていたか
らね。それと、田舎ではこういうことは小
さな頃から日常茶飯事だった。
 もうすぐ、『おーい、待てよ!』と云って
走ってくるからー」
 妙子が再度、振り向くと透は居ない。
 「啓ちゃん、怖い!」
 啓一の左腕に捕(つか)まる妙子の両肩は、
わなわな揺らいでいた。芳(かぐわ)しい石
鹸の香りが鼻先を掠(かす)めた。
 『おーい、待てよ!』
 透の元気な声が背中越しに響いた。妙子
の表情がピンク色に染まった。
 「時間がかかったな、透」
 「うん、三人だからな。少し手間取った」
 透の唇の端には、少し赤い血が滲(にじ)
んでいた。
 「透!ン、もう!心配したんだから。私
の前では二度と、こういうことはしないで
ね、約束よ! それで、お母さんは何て?」
 「招かざる客だけど、いらっしゃい、だ
ってさ。招かざるーって、どういうこと?」
 三人は冬間近の、夕闇せまる銀座を後に
したー。        ―次回に続くー

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